- 6,7歳が第二言語習得の最適期といわれています。その前の年齢から、適切な方法で第二言語に触れることが、効果的に第二言語を習得するカギとなります。
- これからの英語教育には「ことばの身体性」「コミュニケーション手段としてのことば」の観点が必要です。
- 日本人独自のリズム感を真に理解した上で、リズム・音楽・身体の動きを通して、英語を学ぶこと。これが英語を習得するうえで非常に重要であり、かつ効果的です。
- 体を意識しての英語およびコミュニケーションスキルの習得は、他の言語習得、世界中の人々とのコミュニケーションのスキルにつながります。
世界のグローバル化、そして2020年の東京オリンピックに向けて、日本における英語教育への関心と意欲は年々高まりを見せています。 しかしその一方で、長年の文法・語彙・翻訳重視の英語教育によって、日本国民全体が英語に非常に高いコンプレックスを持っている状態でもあります。 TOEICなどの英語テストで好成績をおさめても、英語によるコミュニケーションが十分に行えない日本人が多数に上る、という皮肉な状態が起きています。 英会話スクールや個人向け英語教材が氾濫し、英語教育の低年齢化が進み、バイリンガルプリスクール(保育園)が人気となっています。 そしてこのような状況を受け、2011年から小学校5,6年で年35時間の外国語活動が導入され、さらに2018年より、小学校3、4年で年35時間の外国語活動が、小学校5,6年からは外国語が必修教科として導入されることになりました。
なぜ日本人は長い間英語を学校などで熱心に学んでいるのに、他の国の人々のように、英語を使ってコミュニケーションをすることがこんなに難しいのでしょうか?
言語学者や学校教育専門家による研究調査がさまざまになされ、有力な研究結果や理論が多数発表されています。 しかしそれによって目覚ましい英語力の向上が見られたとはまだ言えない状況です。
これらの研究において見落とされている重要な観点があります。それは「ことばの身体性」です。「ことば」とは文法や音声といった無味乾燥な単位の集合体にすぎないのではありません。 それは人と人とがコミュニ―ションをする際に使用するツールの一つであり、身体から発せられるさまざまな要素―リズム、イントネーション、間、身振り、表情など―を含めた総合体であると考えるべきです。 すなわち言語を学ぶ際には、単に文法を学んだり特定の発音を矯正したりするだけでなく、身体運動を含めたものも同時に考慮しての「話しことば」として習得すること―「話しことばの身体化」―が、話せるための言語を習得するカギとなります。
クロアチア共和国(旧ユーゴスラビア)出身の言語学者、ペタル・グベリナにより提唱された「ヴェルボ・トナル・システム(VT論、言調聴覚論)」は、そのような「話しことば」を習得するための言語教育理論で、特にリズムとイントネーションを聞き取ることが大切だとしています。
「リズムとイントネーション」について考える際、日本人のリズムの感覚と、英語話者のリズムの感覚は非常に異なる、ということに留意する必要があります。 このリズムの感覚とは、それぞれの母語のもつリズム(言語リズム)と密接に関わっており、身体感覚を伴います。
すなわち、それぞれの言語を使う際にその言語リズムに同調するための身体運動の傾向があり、その傾向が日常生活におけるさまざまな動作にも表れる、ということです。
日本のわらべうたとイギリスのナーサリーライムで日本語・英語の言語リズムを比較した鷲津名都江氏は、英語の言語リズムを「バウンシング・リズム(ボールが弾むようなリズム)」、日本語の言語リズムを「ストンピング・リズム(足を踏みしめて歩くようなリズム)」と紹介しました。 そして、日本人英語教育指導者がナーサリーライムなどを使用して英語教育をする際、「日本語の重いストンピング・リズムの足取り・振り付け」で、弾むようなバウンシング・リズムを持つ英語の音楽を使って踊る指導をしており、「ますます重いストンピング・リズムの訓練になってしまう」、「日本人のストンピング・リズムが無意識のうちに顔を出してしまうのですから、自分たちの文化・言語の中で身についたものは本当に根深く、自覚していないと恐いものです」と述べています。
当協会は「日本人のストンピング・リズムの自覚」、そして「英語のバウンシング・リズムの自覚」の両方が、英語教育において非常に重要だと考えます。 これは言語のリズムやイントネーションを体で感じ、身体を使って表現するために基本となるべきことですが、それには「英語のバウンシング・リズム」に着目しているだけでは難しいことを示唆しています。すなわち日本語と英語のリズムはそれぞれどのようなものかを身体でもって理解し、ターゲットとする英語の言語リズムを身体に染み込ませ、自動的に再現できるように「肉体化」することが、コミュニケーションスキルとして真に機能する、「話しことば」としての英語の獲得に欠かせないことなのです。
英語の言語リズムを肉体化する際に効果的なのは、音楽とダンスです。 西洋音楽は西洋の言葉ときわめて密接な関係にあり、英語のリズム (バウンシング・リズム) は英語の歌のリズム (アップビートとダウンビート) や音楽の構成(アウフタクト、シンコペーションなど)に深くかかわっています。 そしてダンスは音楽を身体的に表現したものであり、音楽のアップビートとダウンビートにのり、音楽の強弱、テンポやニュアンスを表現するための様々な動きがあてはめられます。 このような音楽とダンスのテクニックを英語教育でも意識的に使用すると、英語という言語を体まるごと使って体験することになり、結果長時間記憶に残りやすくなります。 そして、英語だけでなく、音楽やダンスの基礎的な能力も同時に、自然に身につけることが可能です。
英語リズムムーブメント協会は、日本人が無意識に備えている、日本語の踏みしめる「ストンピング・リズム」を意識するとともに、英語の持つ、弾むような「バウンシング・リズム」を肉体化して、効果的に「話しことば」としての英語を習得する方法を探ることを主たる目的として設立されました。
そして身体によって言語を理解・習得し、人とコミュニケーションを図るスキルは、英語の習得だけでなく、あらゆる言語の習得においても活用することができます。今後ますます進むと思われるグローバル化に向けて、「ことばの肉体化」スキルを一人でも多くの人と共有し、世界中の人々との相互理解が深まることが、当協会の目指す最終的なありかたです。